(1) 基本的な考え方
河川利用にあたっては、「河川生態系と共生する利用」という理念を実現するため、推進すべき利用と抑制すべき利用を峻別する。さらに、「川でなければできない利用」、「川に活かされた利用」を重視するという観点から、堤内地などで代替できる機能は長期的には堤内に移行することを目標とし、また、河川環境・生態系に負の影響を与える利用は制限する。このため、適切な利用に向けた規制等の仕組みづくりを行う。
今後の利用については、「川でなければできない利用」、例えば、漁業や遊漁、水・水辺の植物とのふれあい、河原などを利用した遊び、水を利用した遊び、水泳、カヌーなどは、川本来の機能を損なわないかぎりにおいて、促進を図るべきである。
また、舟運や漁業などの河川を利用する産業については、湖や川にまつわる文化・伝統として河川整備への位置づけを行い、復元・継続などについて検討すべきである。
適切な利用に向けた規制等の仕組みづくりについては、まず、河川等の利用者および河川管理者が、河川・湖岸・水辺の現状やその保全についての情報を共有することが必要である。さらに、その共有した情報をもとに、利用者・利用者同士・管理者が、お互いに意思の疎通を図ったうえで、相互に調整を行い、独占的・排他的利用の制限など、適切な河川利用についての仕組みづくりを行う必要がある。
河川利用にあたっては、地域的特性の配慮が必要である。
琵琶湖は、流域全体に水を供給している重要な水資源であり、その長い歴史の中で固有の生態系を育んできた貴重な古代湖であることを忘れてはいけない。そのため、利用にあたっては、とくに環境への十分な配慮が必要である。
また、例えば猪名川の下流部のように、すでに人間による改変が相当程度行われている「里川」的な河川については一定の管理が必要である。河川環境は自然の回復力によって復元していくことが望ましいが、場所によっては人間が少しだけ手を添えて、自然の営力の回復を手助けするような措置を講じることも考える。
(2) 水域利用
水域の利用にあたっては、泳げる川・遊べる川の復活を目指して水質の改善や水辺の回復などを行う。また、水面の無秩序な使用は厳に戒め、秩序ある使用へと誘導する。
水上バイク・プレジャーボート、釣りなどによる利用については、「水を汚染しない」、「川や湖の生態系を壊さない」、「他人に迷惑をかけない(騒音・ごみ・事故の危険性、違法駐車等)」ことを基本原則として、利用が適正に行われるよう規制を行う。
(3) 水陸移行帯利用
琵琶湖の水辺や河川の高水敷と低水流路にはさまれた空間は、境界を明確に区分し難い場合があるものの、多くの動物が生息し、植物相も豊かで、自然生態系保全にとって重要な河川空間である。無秩序な利用や河川改修などにより荒廃しているこの空間に、新たに水陸移行帯という区分を設け、利用を厳しく制限し、保全と再生を行う。
また、河川空間のうち、水辺移行帯として再生に適した場所においては、高水敷の切り下げあるいは緩傾斜化などを実施して、水陸移行帯を積極的に創出する。
(4) 高水敷利用 (注1)
高水敷に設置されているゴルフ場やグラウンド等の施設は、本来、堤内地に設置されるべきものであり、長期的には堤内地に戻していくことを目標とする。関係自治体は、市民のニーズに対しては、堤内地にグラウンド等の用地を確保するよう努力すべきである。そのため、原則として新規の整備は認めるべきではない。
しかしながら、既存の利用施設が数多くの人々に利用され、また存続を望む意見が本委員会に多数寄せられるなど要求度が高いという現実があり、利用者のニーズの大きさと利用に伴う河川環境への影響をどのように評価するかが大きな課題である。
したがって、当面、利用施設は設置範囲を限定し、良識ある使用によって出来るかぎり河川環境に影響を与えないような配慮を行うことが必要である。
また、特定の個人や団体等が、柵・塀などを設置して他に使用させないといった独占的・排他的利用は厳に禁止すべきである。
(5) 堤外民地の解消・不法占拠の排除等
堤外民地は、買収あるいは堤内地へ換地などの処置をすすめ解消する。堤外公有地の不法居住・不法占有・不法耕作も早急に解消する。
(6) 産業的な利用
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1)舟運
舟運については、文化・歴史面、観光振興、災害時の輸送手段の確保といった種々の観点と、河川固有の生態系・自然環境保全を考慮して、沿川住民・自治体等の要望等を踏まえて検討を行う。
2)漁業
持続的に漁業や遊漁を営むことができるということは、生態系および水温・水質・湖棚・河床、河川の連続性など、河川環境が健全な状態にあってはじめて可能になるということを認識することが重要である。
漁業や遊漁のために「魚が減れば稚魚等を放流すればいい」といった手段に頼らなくてもすむように、漁業が継続的に成り立つような河川環境の保全・復元に努めなければならない。
漁業や遊漁は固有の生態系に十分配慮して行うべきであり、当該河川に固有の在来の魚介類が、生れ、育ち、豊富に生息する河川環境をつくり、次の世代に残していくことが望まれる。
外来魚対策として、外来魚が生息しにくい河川づくりを進めるとともに、例え同種の魚介類であっても当該河川・湖沼の水系外から移入して遺伝子レベルの混乱を招かないように、放流については厳しい規制が必要である。
3)砂利採取
砂利採取については、慎重な取扱いが必要であり、砂利採取は次の場合に限定して認めるようにすべきである。すなわち、河川環境が改善されるあるいは悪化が起こらないと予想される場合、工事等によって必要と認められる場合、河川への流入量と採取量のバランスが維持される場合、および他に手段がなくやむをえないと判断される場合などである。 |
(7) 河川利用にかかわる諸権利について
河川の利用にかかわる諸権利として、水利権、漁業権、占用権など多くの利用権が設定されている。これらの諸権利がこれまでの河川にかかわる諸産業の発展に寄与してきたことは否定できないが、一方で、時代の流れとともに河川を取り巻く環境が変化し、硬直化しつつあることも否定できない。これらの諸権利はこれまでも一応見直されてはいるが、その見直しは形式的な場合が多く、社会の変化に柔軟に対応したものとなっていない。
したがって、これらの諸権利については、一定期間ごとに見直しを実施し、時代の変化に対応していかなければならない。
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